徳保氏に答える〜『損して得取れ』

徳保氏をすっかりおまたせしてしまっている当BLOGの更新の遅さに恐縮の至り汗顔の極みであります。自分から話を振ったのが10/2で、即日徳保氏が自サイトで反応していただいたのに、返事が10/7早朝って……orz ゴメンなさい。
とは言え、真摯に問題に切り込むことでお詫びにかえたいと思いますので、さくさく行きます。タイトルもそのつもりで付けました。
さて、まず徳保氏は書かれました。

のまネコ問題は価値観対立なので、じつのところ、何が妥当かという判断は、各人の拠って立つ文化に依存します。
(中略)
私は法運用の実態と経済的利益を重視します。多様な価値観を認める社会において、価値対立を裁き秩序を実現するためには、立法機関で多数派を構成して法を定め、多数派の常識に沿って運用する他ない。現状では「のまネコ」の商標登録に法的な問題はなく、誰も損をしない。商慣習と庶民感覚のズレが今回図らずも浮き彫りになりましたが、私は高々300万人のコミュニティの感情論よりも社会全体の利益増大を目指すべきだと思う。

自らの「文化的立脚点」を定めて頂いたので、とても分かりやすく整理されたと思います。その意味でいうと、私がここまで重視してきたのは「現在時点の倫理」及び「将来の可能性」、この二点でした。それは多分リアルでの私と関連する価値観だからだと思います。
しかし、だからといって必ずしも「価値観の相違」で話が終わるかというとそうでもないと思うのですね。「法」の根底が倫理であり、「法」の目的が「我々の社会の未来」である限りにおいて、双方の価値観に基づいた議論にも重なる点はあるはずだと思うのです^^
今回avexが揺るがした「倫理」とはどのような倫理でしょうか?
avexはネット上の著作者不明の著作物を占有しようとしました。著作者不明の著作物が公共の所有に属する物であったことをふまえれば、彼らの行為は公共物を私する行為に等しく、それは「公」の秩序に関する倫理「汝盗むなかれ」という私有/所有に関する倫理を犯しています。更に、著作権を強く主張する企業のしたこととして彼らは「己の欲せざる所を人に施す事なかれ」という公平さに関する倫理を侵したとも言えるでしょう。
社会秩序を維持する意志、私有の尊重、公平さ、はいずれも今日社会のあらゆる「法」の基礎を為す概念ではないでしょうか。法はそれらの倫理を実現するためにこそ定められるものではないでしょうか。それらの倫理を侵す行為が「我々の法に違反しない」とすれば、それは「法が不十分である」に過ぎないのではないでしょうか?『声の大きなグループだけが法外の利益を手に入れる不合理』は私も認めたくありません。しかし、法の抜け道を私利私欲に用いる人間を擁護するために法が盾となるのもおかしいと思います。
では、経済的にはどうなのか?これは、上で書いた「将来の可能性」をどれだけに見積もるかという問題になると思います。徳保さんが書かれた『誰でも「恋のマイアヒ」の人気にただ乗りして儲けることができてしまう。「恋のマイアヒ」の企画・製作・広告に労力と資金を注いできた avex にとって許容し難い』という意見は、そもそも「キャバクラ嬢50人を集めて業界人を招いたパーティー」より、「ただ乗りを許容する世界で鍛え上げられたキャラクターを使用した動画と、その世界での口コミの評判」の方が効果的であった……という点を看過していると思います。のまネコを「モナー」に戻し、その著作権を一切主張せずキャラクターを開放し便乗を許すことがどれほどの宣伝になるか(特に費用対効果の点で)、墨香オンラインの結果を見て判断するのが良いと思いますが、少なくともそこに経済効果を無視した理想論しかないとは私は思いません。むしろ、あえてその世界に企業が踏み出すことに大きな意義とそれに伴う経済効果が見込めたと思いますし、avexがその一歩を踏み出せなかった理由は、要するに「無知であり臆病であったから」に過ぎないと思います。一昨日のコメントでも紹介しましたが、墨香オンラインの人(ネッツジャパン)がAAキャラの使用に際して「AAの著作権は誰も登録しない、しようとしない、してはいけないという不文律(http://www6.atwiki.jp/monasaver/pages/29.html)」を主張したことは、とても重要だと思います。今回の件を見て、一部から「やはり2ちゃんねる名義で商標権などを取っておくべきでは…」という意見もありましたが、あえて登録しないことに積極的な価値があるという主張に非常に説得力があります。それは単なる美談ではなく、そうだからこそ将来に亘ってそれは金の卵を産む鵞鳥であり続けるのだ、という判断があると思います。
以上二点において、法運用という観点からも(というと偉そうですが)、経済的にも、私は今回のavexの態度は過ちであったと思います。