みんなが幸せになるルール(徳保氏に)

昨日のコメントでは、当初「説得は無理」としておられた【フォークロアを『若干改変してオリジナル主張』するのは冒涜ではない】という点に関する説明をしていただいたことに感謝します。お陰で徳保さんが見ておられる事例(私が知らなかったこともたくさんありました)やそれに基づいた判断〜主張の流れを見ることができました。ありがとうございました。徳保さんとのやりとりのお陰で、私も自分なりの考えを整理できてきた気がします。以下に、上記を見た上で考えたこと、そして私なりにまとめたことを書きたいと思います。

まずLinspire*1TurboLinuxについて。逆にお伺いしますがLindowsLinspireの「L」って何でしょう? TurboLinuxが「Linuxである」ことを隠したりしたでしょうか? RedHatだってVineだってLinuxの一バージョンであることを誰かに誤認させようとしたりはしなかったのでは?*2これらの会社が本家Linuxの出自について鈍感であったワケがないので、私が「パクリにもルールがある」と書いて言いたかったのはまさにこういう「ささやかな気遣い」のようなことです。かならずしも「ロイヤリティの分配」が必要なわけではありません。こういう「出自への配慮」は、普通に商売するときにも(単にトラブルを避けるためだけにでも)必要なことだとあらためて感じました。創作物と過剰に主張しない、オリジナルであると主張しない、原典が何であるかを明記し原典を尊重する、……そういう「振る舞い」の部分まで含めて、それが「パクリのルール」でありavexに欠けている欠けていると言われている「リスペクト」だと思います。*3
ちなみに「Apple の独占商品 SafariオープンソースKHTML の派生物だなんて一般ユーザは知りませんが、やはり問題視されません。」とありましたが、必ずしもそうではなく、実際こちらにみられるように、両者の利益や感情的な対立を解消するのは大変なことであるようです。そこにある『この衝突を、オープンソースプロジェクトに取り組んだ企業が経験する失敗を象徴している、とする意見もある。』などの一節は、気軽にやったつもりのavex担当者には、反省の意を込めてぜひ理解してほしい一節です。

 KDEの開発者で、同グループの広報担当を務めるソフトウェアコンサルタントのGeorge Staikosは、「オープンソース側が制約を受けないことを誇りとしている事柄から、企業は制約を受けている。Appleは、KDEKHTML開発モデルとうまく相容れない問題を社内に抱えており、その意味では以前から問題があったといえ、それがKHTMLSafariの急速な分裂へとつながった。そして、時間が経つのに従い、この問題は複雑化してしまった」と語っている。 (引用元:上リンク)

『制約を受けないという誇り』は残念ながら利益を旨とし納期制限を守らざるを得ない企業の体質とは衝突するし、コミュニティが求める『透明性』は「守秘義務」がなければ利益を独占できない企業の目的と衝突せざるを得ない。両者には深刻な利益対立があり、決して単純に片づく問題ではないのです。

また、上記を踏まえ電車男に関する件について言えば、「電車男」というタイトルを使い続けている時点で何一つ出自は隠されていない、それが重要だと思います。私はテレビのドラマも映画も漫画も、そもそも書籍版すら見ていないので(まとめサイトだけは昔読みましたが)論じる資格があるかどうか不明ですが、「タイトルを変えない」ということは、上のような事情を考えたときとても大事なことだと思われませんか?

これまでこれらの「リスペクト」は必ずしも明文化されていませんでした。それは問題の質からいって明文化が難しい内容である(そもそもケースバイケースであることが多い、保護されるべき権利の『主体』がそもそも明確ではない=近代法の基本的な考え方と合わない、生じる被害も回避できたことによる利益も数値化できない、など)ためであると思われます。しかし、少なくともトラブルを可能な限り避けるやり方は他にもあり、avexは事前にそういう配慮を一切しなかっただけでなく、問題があることを認識してもいなかった、というのはほぼ間違いのない所であり、このような問題に見切り発車でGOサインを出せる…という社内のチェックシステムの不備・リスク管理の甘さも含め今回はそのツケを払うことになったということではないかと思います。KDEとの交渉に頭を悩ませるApple担当者に、あまりにも警戒心のないavexの態度とコメントを交えてこの事例の話をしたら、同情は示されてもむしろ「そんなのと一緒にしてくれるなよ」と言われそうでさえあります。

【「のまネコ」を成功例にする方法はもちろん『あり得た』と思います】。【「のまネコ」を成功例にすることが悪かったとも思いません】*4しかしavexが失敗したことは事実であり、失敗の原因は「2ちゃんねらーが子どもであり法や商慣習に無知であったこと」ではなく*5avexが企業として無知であったこと、パクりにはパクりのルールがあること」である、というのが私の主張です。今回の件は確かに一コミュニティの問題に見えるかもしれませんが、徳保さんの表現を借りるなら、それが「300万人」という人口の(それも社会の様々な場所に普段は所属する)コミュニティであり、そのことからくる影響力は大きい。それがどういう決着を迎えるかによって今後の社会全体の流れも変わってきかねないと思っています。その意味でavexには今回の騒動の原因がどこにあるかを分析し理解する「責任」があるし、この問題にきちんと決着をつける「責任」がある。でないとavexが残したのは「企業がオープンソースコミュニティに手を出すと失敗する」という事例でしかなくなります。できれば「どうすればそういう失敗から再度信頼を構築するかという成功事例」、最低限「どうすれば成功できたかという教訓のための失敗事例」にしてこそ、今回の事件自体を「社会的な財」とすることができる。そして今後の社会的財の形成も保証することになり、そうしてこそ一部上場企業としての社会的責任を果たしたと言ってもらえるのではないでしょうか。
2ちゃんねらーが馬鹿だったから失敗した」では、今後に何も残さない。2ちゃんねるが「圧力団体」然と振る舞うことに嫌悪感や危機感を感じられる気持ちは分かりますが、社会的な影響力を及ぼすほど2ちゃんねらーが一つになってねばり強く活動するというのは結構稀なことです。2ちゃんねらーであることに何の要件も強制も無い(匿名公開掲示板である)以上、それがどれだけ多数を抱えるコミュニティであってもそもそも力となる保証がない。たとえ過激な風説をもってしてもそれを一方向にコントロールするのは難しく、従ってそれは本質的に何の力もないイノセントな存在でありつづける他はない…という話は、以前書きました。逆に言えば、これだけの数の人が、一円の得にもならない活動をしているからこそ、この問題の根っこに「馬鹿だから」では済まない何かがあると感じられるのです。たとえば昨日TB下さった「俺様かく語りき」さんが述べておられた「生理的な不愉快という感覚」は、以前私が述べた「宗教的イコン」説まで含めて述べられた話ですが、私のまとめより相当説得力がある話です。*6法が必ずしも想定していなかった事例において判断を求められている、という状況認識が正しいとすれば、今回の件を「圧力団体(2ちゃんねらー)による横紙破り」だとみなす必要はなく、単なる一コミュニティの利害の問題というより法を改善する根拠となる(それゆえ一般にも益のある)事例と考えることはできないでしょうか。

…まあ、こう話しながら、ここ数日私もかなり徳保氏のものの見方考え方の影響を受けたなと感じています。現時点で感情的には依然としてavexと関連企業に許し難いものを感じますが、そういう問題が発生する素地は常にありむしろ問題は既にかなりの数で起こっており、かつ単純に「avex=悪」で了解し合えない考え方の領域がある、ということを知ることができました。その点、素直に感謝したいと思っています。*7

*1:余談ですが、パクリパクラれ…という事情に関して、Linspireというのも現時点では相当ややこしいことになっているのですね……^^;:http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000047623,20086922,00.htm

*2:知らずに新OSだと思って購入した人が"もし"いたら本当にお気の毒ですが…。

*3:後出しで「インスパイヤ」などと言ったから許せるというものではないです。また、後出しならせめて後出しなりの言い方というのもあるわけで、「インスパイヤ」といい「オリジナル」というその言い方には、配慮の欠片も感じられません。同時に「PVキャラは別」という主張を始めたこともいかにも「工作」っぽく、総じてavexの対処は悪印象でした。

*4:今更ながら思うのは、まだ素直に「マイヤヒぬいぐるみ」とでも言えばよかったのでは?ということですね。モナーという言葉を使わずにあのキャラを問題なく売る方法も無いではなかったと思います。「マイヤヒぬいぐるみ」といえば「マイヤヒ(のFlashに出てくるネコ=モナーの)ぬいぐるみ」と都合良く受け取って貰える可能性も無いではなかった。少なくとも批判者の数を減らすくらいのことはできたでしょう。

*5:KEDOの技術者が子どもであるからトラブルになったのではなく純粋に利害が対立するから問題となったように

*6:余談ながら、『「十字架に磔にされた全裸のモナー」とか「古いフードをかぶり子供を抱いてほほえむモナー」とかアリだよなとか変な方向に考えが進んだりする』。それは留保付きで「有り」でしょうね(ちょっと想像して笑ってしまいました(^^;))それは「パロディ」または「リスペクト」だと思いますので、グレーだと思います。某宗教の人に怒られたらやっぱり無しになる、という意味で。(・・)ノ"パロディ必ずしも白ならず。"

*7:…と書いても、別に問題を終わらせようとしているとかそういうつもりではありませんので、その点にかんして配慮的なお気遣いは無用です^^