回答者を守るために『質問者拒否機能』の実装を


livedoor ニュース - タイの人気ブロガー殺害、容疑者が『人力検索はてな』で証拠隠滅か

人気ブロガーであり株式投資家の棚橋貴秀さん(33歳)がタイで殺害された事件で、タイ警察は浦上剛志容疑者(30歳)と森宏年容疑者(30歳)に対し殺人容疑で逮捕状をとった(詳細はこちら)。この犯行に関して、浦上容疑者が『人力検索はてな』を使用し、殺人や証拠隠滅に関する情報を収集していた疑いが出てきた。

この件について、まず『「はてな」及び回答者を責めるのは筋違い』という前提は押さえておきたいと思います。真意を隠して近づき、欺され道具として利用されたに過ぎません。「身分を隠して近づくための場を提供したことが問題」ということを言おうとする人もいるかもしれませんが、それならそもそもインターネットの仕組みそれ自体が責められるべきです。


その上で自分は、はてなにやはりこの問題への対応を考えて欲しいと思っています。同じようなことが起こらない…少なくとも起こりにくくするための対応を。それは、彼の質問に答えた回答者へのケア、という効果を考えるからです。


それは、法律上の責任よりも道義的な責任の問題です。ちょっとお人好しでお節介で生真面目で熱心な、いわゆる人力の「良回答者」たちがこの件で負ったトラウマは、多分端からでは分からないくらい根深いものがあるのではないでしょうか。長年回答者を続けた人なら分かると思いますが、回答を続ける最も大きなモチベーションというのは質問者との意義ある交流から生まれるもので、今回の件で損なわれたのはまさにその部分だからです。


自分が殺人に手を貸した形になったこと、そしてその犯人からポイントという形であれ報酬を貰ったこと、そして彼が怪しい存在であることはいくらか注意すれば分からないことでもなかったこと……それらは、良心的な回答者であればあるだけ、深く心に刺さる棘になるでしょう。
……たとえば駅前で道案内のボランティアをしていた少年が一人の青年に包丁を売っている店を聞かれ道案内したところお駄賃を貰った、翌日その人が通り魔事件を起こした……その状況で少年を「法律的に」責める人はいないでしょうし道義的にも少年を責める人は多分いない、それでも少年が内心深く自分自身を責めないでいられるとはおそらく思えない……
これはそういう話です。


私は、随分前から、人力検索における「質問者と回答者のパワーバランス」がおかしいと感じていました。『いわし』やその他でその類の発言をしたこともあったかもしれません。具体的には、
  質問者=金を払っている=サービスされる側
  回答者=金を貰っている=サービスする側
と考えるような風潮に対する居心地の悪さということになるでしょうか。実際上記のように考えている人は多いかもしれません。たとえば数年前に「回答拒否機能(悪質回答者を排除するためにidではじいて答えられないようにする仕組み)」が実装されたときも、多くの人の論調は「実際にお金を払っている人=はてなの客、にとっての便益は重要」というものだったと思います。
(このあたりの話は、調べてみると http://d.hatena.ne.jp/jo_30/20050117 あたりで過去話題にした模様)
が、そのような人しか集まらなければ、人力検索は早晩滅びるしかないのではないかと思います。なぜなら誰が考えても分かるように質問者が支払うポイントを「知識の価格」と考えれば、それは恐ろしく安すぎ、対価の要件を満たしていないからです。「はてな」というサイトの面白いところはポイントという形だけの制約で回答者の善意を刺戟するだけで、このあり得ないシステムが成立することを証明しているところですね。だから回答者質問者のパワーバランスを質問者側に崩すと、人力検索のその根幹がゆらぐのではないかと思っているのです。


今回の件に対する一つの効果的な対策として、これまではてなideaで何十回と無く希望の出ていた質問者拒否機能の実装を希望します。
(例:http://i.hatena.ne.jp/idea/12504


これは、質問とidを積極的に関連づける機能で、単に「嫌な質問者を避けられる」というだけでなく、従来「一人の質問者として把握」されにくかった質問者像を統合する意味でも重要な機能だと思います。今回の事件の場合、もし質問者拒否機能が実装されていれば、この質問者に対して何か「怪しいな」と感じた時点で質問者拒否という行動に出ることができたでしょう。また質問者に対して「この人、何か変な質問を繰り返していませんか?」といった話題がコメントなどで出ていたかもしれない。上記アイデアを却下する際、はてな側は「お手数ですが、回答する際にご判断いただければと思います。」と言っておられますが、実際それができないから要望があるわけで、一日に5個10個と実際に回答してみれば分かる通り回答に必要などの事情が無い限り質問者idなんていちいち見ません。そしてトータルでこれまでたかだか500回答しかしていない私でも、「この質問者には二度と回答したくない」と思わされたことが確実に5回以上はありました。簡単に人を見切る積もりはないのですが、あまりといえばあまりな仕打ちを受けた時とかに。


今回、回答者が大きく傷ついた可能性があることを考えると、パワーバランスの回復を
はてなidea「人力での回答者保護」
にある様々な要望から何かを実装することで実現するというのは良い案ではないかと思いますし、その際、事件との関連からも一番検討すべきはやはり上記の質問者拒否機能の実装ではないか、と。


もし、それが質問者回答者の交流を妨げる可能性があると考えるなら、せめて回答者の側に「質問者を評価する機能」が欲しいと思います。あるいは、回答する際「以前あなたがこの質問者につけた回答一覧」を見るボタンを付けるだけでもぜひはてなさんに検討頂きたいと思っております。


(追記)
ideaでこんなのがあり実装された模様。
http://i.hatena.ne.jp/idea/20848