映画「YASUKUNI−靖国」を観てきました(ネタバレ回避有)

本日、かねてから楽しみにしていた映画「YASUKUNI−靖国」を、全国に先駆け上映決定をした大阪は第七芸術劇場にて、観てきました。内容ですが、とにかく深く感動しました。いずれ近くに来たら観てみようとか、あるいはこれから大阪第七芸術劇場に行こうとか思ってる方、そしてどうしようかなと迷っておられる方に、ぜひこの映画は観るべき!と強く訴える方向で(可能な限りネタバレを避けて)書こうと思います。


先日、上映中止の件で記事を書いたときに監督のインタビューを読んで以来、その対象に対するスタンスに納得し、これで実際の作品が「映画として」面白ければ最高なのだが……と思って期待していたのですが、期待以上の出来だったとまずは述べておきます。この監督、本当に才能溢れるドキュメンタリー作家でした。


さて、まず劇場への行き方などから。「第七芸術劇場」ですが、駅から歩いてほんの3分なので迷いようは無いと思います。ただし、周辺は風俗店等多い場所なので、そういうのに慣れていない方は誰かと一緒に行った方がいいかも。梅田から阪急…できれば神戸線で一駅…「十三(じゅうそう)」で下車。神戸線に乗った方は、降りたホームをひたすら梅田側に戻るつもりで歩くとホームの端が西改札口です。(参考:十三駅http://rail.hankyu.co.jp/station/juso/juso.html
西改札口を出るといきなりたこ焼き屋とかありますが、そのままアーケードを明るい方向へ向かって20mほど歩くとすぐ大きな交差点に出ます。そこまでいけば左前方に吉野屋が見えるので、信号を渡ってその通り(サカエマチ商店街…とでかでかとアーチに書いてあります)を入ると、左前方に大きなボーリングのピンが見えます。そのビル(サンポードビル)入るとすぐエレベーターがあり、6Fで降りると目の前が劇場です。(参考:サンポードビルへのアクセスhttp://www.sanpord.com/access.html


次にシステムですが「予約無し、完全入れ替え制」で、席数は96席。朝からその日の分の整理券を発行していて、整理券を受け取ると開演15分前までに集合し、そこから並んで入場し順次自由に席を選んで座れる…という感じ。気になる混み具合ですが、朝9:40頃に劇場に行くと(今日は一日三回上映の最終日だったこともあり)まだ2回目、3回目とも20席くらいしか埋まっていませんでした。最終的には少し席に余裕があったくらいなので、平日・開演1時間前くらいに行けば席は取れるのではないかと思います(保証はできませんが)。周辺は昔懐かしい商店街で、ご飯屋さんもいくつかあり、駅のガードをくぐって反対側に行けば喫茶店ミスタードーナッツもあるので、時間を潰すのはそんなに難しくないでしょう。コンビニは、地図で見ると駅の反対側にファミマが一つあります。


で、いよいよ映画自体についてですが、まずこれは宣伝映画の類では全くありません。押しつけがましいメッセージの類が表明されるということは一切ありません。というか、そもそも感動強要系や誘導系のくだらないナレーションが全然ありません。テロップも、本当に必要な最小限ギリギリの量に抑えています。私は、この監督は本当に「映像の力」というものを信じ、プライドを持っているのだと思いました。いくつかの雑誌記事でこの映画について「長い」とか「事実がバラバラで分かりにくい」という批評を見掛けましたが、そういう方はそもそもここで扱われている話題に全然関心がなかったのかもしれません。もし、歴史に興味があるか、靖国問題に少しでも関心が有れば、お持ちの政治思想的信条の如何を問わず観に行って損をしたと思うことは絶対にない……きっと様々な発見をし、深く考えさせられることでしょう。映画が終わって明るくなったとき、劇場は深い沈黙に包まれていました。そんな、ずっしりと重みのある、内容の深い映画です。


かといって、重苦しい映画なのかというと、決してそうではありません。映像は時にユーモラスに、時に緊迫し、じっくりと長回しが続くこともあればカットバックでテンポ良くたたみかけるシーンもあります。全編を通して感じられるのは、人間に対する深い理解と愛情、そして切々とした悲哀です。胸を突かれるような気持ち……けれどけっして不快ではないところの……映画を見終わっての感想を一言で言うとすると、そこに尽きるでしょう。要するに一言で言って非常に上質のドキュメンタリーフィルムだったということです。監督には心からお礼を言いたい。こんな素晴らしいフィルムを作ってくれて本当にありがとう、と。
そして同時に、この映画のクレジットに「日本芸術振興基金/Japan Arts Fund」という名が刻まれていたことは非常に重要でした。国会議員の悲しい振る舞いで重くなっていた気持ちが、あのクレジットで個人的にはすごく救われた気になりました*1。日本も捨てた物ではない。芸術振興基金のみなさん、本当にGJです。
また、臆せず堂々と上映に名乗りをあげた第七芸術劇場のみなさん、本当にありがとう。お陰で素晴らしい時間を過ごすことができました。また映画を観にいきたいと思います。


最後に、ネタバレにならない範囲で少しだけ内容に触れたいと思います。まず、撮影対象とカメラの位置が近い!9年間の撮影の間には、何度もカメラやフィルムを奪われたりする目に遭ったそうですが、それも無理からぬことと思わず納得してしまいそうなほど大胆な撮影ぶりです。このシーンをこんな角度から観ることができるとは!と何度もうならされました。
また、長回しで目の前の出来事をひたすら撮り続ける…というドキュメンタリーだったので、本当に「次の一瞬にどういう画が来るのか、何が起こるのか予測できない」という面白さがあちこちにありました。たとえば、作品全編を通して「刀匠刈谷直治氏に李纓監督がインタビュー」するシーンがあり、そして踏み込んだことを監督が聞こうとして刈谷氏が口を閉ざすという流れが何度もあったのですが、最後の方で逆に刈谷氏が突然「小泉首相靖国参拝をあなた(監督)どう思いますか?」と切り返してくるシーンがあったのです。確かに!さて、監督の答はいかに……。


そんなわけで、とにかく2時間余はあっという間に過ぎます。そして見終わった後、誰かに語りかけずにはいられなくなるような、そんな映画です。落ち着いて話のできる誰かと、意味のある時間を過ごしたい方は、お二人でお近くの公開劇場にぜひ足を運んでみてください。
各地公開予定 5/15〜(公式ページ)
http://www.yasukuni-movie.com/contents/theater.html


※右上の写真は、劇場で購入したパンフレットです。A4判1冊700円ですが、全部で48ページ、図版も多く参考資料集などもあり資料的価値も高そうで、即買いしました。しかし後半の「靖国神社ガイド」というのは、一体冗談なのか本気なのか…(汗)。


※ダイアリーキーワードで、同じようにこの映画みて賞めてる人を探してみると、余り記事が無くてがっくり……でしたが、このブログ記事(OnFire!:http://d.hatena.ne.jp/biwacovic/20080522)はネタバレを含みますが、我が意を得たりという感じでした。

靖国」(神社)はある一定の立場を人々に提供し続けている。そこには硬直化し、「立場」によって自動的に予測変換されて出てくる言葉しかないし、そんなものをわざわざ映画で見たいとは思わない。
(中略)
この映画は、「意見」のある人から話を聞かず、「意見」のない人にひたすら焦点を合わせようとする。

そうなんですよそこが本当にめちゃくちゃ面白いところなんですよおおおおお。
いいことを上手に言うなあ……。すごいです……。
いやー、泣ける。


http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20080517
こちらはややレフトウィングな方のブログ記事だと思うけど、非常に冷静に「YASUKUNI」を観、論じていると感じましたので紹介。『真剣な人間はおかしくて哀しい』という言葉は、あの映画の本質を非常によく言い当てていると思いました。


※「YASUKUNI」に関するネットの情報を収集しているらしきサイトを発見したのでTB
http://d.hatena.ne.jp/yamakiichi/

*1:私が勝手にそう思っているだけにせよ