所得格差の拡大は異民族を作るのか

ニュースより(powerd by ウェブ魚拓
内閣府は「所得格差の拡大」とは見かけ上のものに過ぎないと主張しているそうです。所得格差を示す指標の「ジニ係数」が0.32から0.38に上昇したことを受けての発表なのだとか。ジニ係数は0(格差無し)〜1(1人が国の財産全てを持つ超不平等社会)で表される値で、昨年が0.314だったのが今年は0.38になったのならなるほど無視できない幅で上昇しているわけですが、そもそもこれはどういう指標なのか、どう算出するのかさっぱり分からないので調べてみました。
ジニ係数
一番上の図が非常に分かりやすいのですが、つまり「100人が100円ずつもっている際に、横軸=人数、縦軸=合計の財産というグラフを作ればy=100xの直線グラフになる(そりゃそうですね)。」という考え方を元に、理想のグラフがつくる三角形の面積を1として、実際にそのグラフを書いてみたときの面積をそこからひいた残りが「ジニ係数」。つまりジニ係数「0」の時は理想=実際ということであり、「格差が0の社会」ということになるわけです。なるほど…。
まあそんな説明より、とりあえず「目安」が便利ですかね。

ジニ係数の目安
  〜0.1 平準化が仕組まれる人為的な背景がある
0.1〜0.2 相当平等だが向上への努力を阻害する懸念がある
0.2〜0.3 社会で一般にある通常の配分型
0.3〜0.4 少し格差があるが、競争の中での向上には好ましい面もある
0.4〜0.5 格差がきつい
0.5〜 特段の事情がない限り是正を要する

これで見る限り、0.38という係数はまだ正常の範囲内と言えなくもないように見えます。80年には0.32だったのだから去年が0.314ならそんなに変わってない、とも。
しかし、こちらの表を見ると「?」となります。1990-2000の各国のジニ係数を縦軸に、国民所得を横軸にとってグループ分けを試みた表なわけですが、コレを見ると90年代の日本のジニ係数はどうみても0.25そこそこで、0.4近いアメリカは

アメリカは、先進国の中では、所得格差の大きい国であり、特殊な位置にある。

…とか書かれてますね(これは特に移民を多数受け入れているという事情からくるのだとか)。そうすると、特に貧困層を形成するような移民の大量受け入れをしているわけでもない我が国が0.38という数値になったことは随分と問題なのではないかと思うのですが…。更に下の方を見ると80年頃の日本のジニ係数は0.27程度であり、

日本においては、ジニ係数は、長期的に上昇してきており、これも経済がグローバル化する中での競争の激化の結果と考えられる。
かつて、総中流社会と称されたが、その意識も既に崩れてきている。
日本でのジニ係数の上昇の要因について、その事実を含めて数多くの議論がある。例えば、高齢化、世帯規模の縮小、パート・アルバイトなど就業形態の多様化などがあげられるが、このうち就業形態の多様化の一因は競争の激化にあろう。

と書かれています。5年ごとに点を取ったグラフを見てみても、昨年0.314はまだしも今年の0.38はちょっと極端な値だということはハッキリしているのではないでしょうか。個人的には「格差が拡大したというけど、せいぜい一般先進諸国並になっただけでしょ?大げさだなあ」と思っていたのでちょっとびっくりです。「一億総中流」なんて言葉が昔ありましたが、いつのまにか日本はヨーロッパのレベルを軽く飛び越え、アメリカ・中国などといった巨大多民族国家並の不平等社会に突入し始めていたようです。
巨大多民族国家……確かにそういわれれば既にそうなのかも。
(参考URL)
日本の現状と長期分析
過去100年間のジニ係数推移と先進諸国比較グラフ
Ahluwalia:http://yagi.doshisha.ac.jp/lecture/所得分配論/所得分配と経済成長.PDF
http://kyou2005.kwansei.ac.jp/~yamazaki/PovNote.pdf
総務省統計トピックスより


('06.5.7追記)
本日付でこんな記事が。
30−40代の所得格差拡大 厚労省調査を再集計

 所得格差をめぐっては、内閣府が1月に「主に高齢者世帯の増加などによる見かけ上のもので(実質的な格差拡大は)統計データからは確認できない」との見解を公表。一方、厚労省労働経済白書の06年版骨子で賃金格差の拡大を指摘し、政府内でも現状認識に関し温度差が出ている。

…というわけで、内閣府が1月に発表した「ジニ係数の悪化は高齢者世帯増加のせいだよ、大げさだなあ」と言っていたのは間違いだった、というニュースですね。この先どうなっていくのかを記憶しておく意味からも、一応追加しておきます。