中川発言をめぐって

「日本の核保有も選択肢」中川政調会長10/15

自民党中川昭一政調会長は15日、テレビ朝日の討論番組に出演し、北朝鮮の核実験問題をめぐる日本の核保有論について「(日本に)核があることで、攻められないようにするために、その選択肢として核(兵器の保有)ということも議論としてある。議論は大いにしないと(いけない)」と述べた。その上で「もちろん(政府の)非核三原則はあるが、憲法でも核保有は禁止していない」と強調した。
与党三役クラスの有力政治家が、公の場で核保有の議論を提起した例はこれまでなかった。

ちなみに、彼について同記事では

中川氏はテレビで「(日本に)核があることで、攻められる可能性が低い、あるいはない、やればやり返す、という論理は当然ありえる」とも述べた。03年11月の衆院選挙期間中に毎日新聞が実施した全候補者アンケートでは「日本の核武装構想について、国際情勢によっては検討すべきだ」と回答している。中川氏は「私は核兵器を持つべしという前提で議論しているのではない」とも記者団に語ったが、与党の政策責任者という立場では、国内外に影響が広がりかねない。

…と、核武装を否定しないというのが持論に見えますが実は違うんだそうです(本人談)
中川政調会長「私は核武装反対論者」

自民党中川昭一政調会長は16日、首相官邸で記者団に対し、核保有論議を提起した自らの発言について「私は核武装反対論者だ。非核三原則をいじるとはひと言も言っていない」と述べ、非核三原則堅持の立場を強調した。

……

ああ、そうですか。
親分が腰抜けなら野だいこは二枚舌と。
とんだ赤シャツ内閣ですね。

関連:安倍内閣の右往左往

(追記)
若干の追記を加えておく。この件に関して「議論くらいしていいじゃない、持たないことが前提だと言ってるんだし」的意見をネットで散見したので一言。
非核三原則について
まず、かような発言をする人の論理を見ると「非核三原則」がなんのためにあるのかということに対して決定的に無知だとしかいいようがない。「非核三原則」はあくまで理想であり日本も『状況によっては核武装するという選択肢がアリ』だと思っているらしい。しかしそれは大きな勘違いだ。非核三原則に基づく「反核国家日本」というのは、日本が国際社会に対して切ることのできる大きな外交カード*1の一つであり、これを手放しかつ核開発競争に参入し核保有国になることは日本にとって全く利益にならない。歴史的・外交的そして経済的な面などのあらゆる面においてそうだ。
保有は可能か?
また、核保有をうたう人が現実の保有に関してどういう日程でこれをすすめるつもりなのかは知らないが、まさかアメリカから核兵器がぽんぽん買えばそれで済むとでも思っているならとんだドリーマーだとしかいいようがない。そもそもアメリカの議会がそれを認めると思える時点で狂気の沙汰だ。*2だが、一万歩ほど譲ってアメリカから「どうしても核保有してくれ、技術の提供をしても良い」ともちかけられたとして、年間どれだけの予算をそれにつぎ込む積もりなのか。原子力発電所からプルトニウムを転用して…っというような材料だけの話ではない。施設の建築から管理のノウハウ、運用に関する研究や基礎研究、そのための研究者育成と、さらには新兵器開発とそれへの対策など、いずれ独自ですすめざるを得ないそれらの事業にかかる膨大なコスト。たとえばアメリカがこれらにどれくらいの予算をつぎこんでいるか。
参考:http://www.chugoku-np.co.jp/abom/nuclear_age/us/020217.html
ちょっとした実験・研究施設を一つつくるなら、それだけで一兆円以上の予算が必要だ。これは巨大な負債をかぶせられるも同然の依頼ということになるが、それに対して国民的コンセンサスを形成するだけでも多大な労力が必要だ。郵政解散ならぬ核兵器解散でももう一度ぶっぱなす積もりか。そのために「戦争」の雰囲気づくりをする?なんと巨大なマッチポンプか。
・抑止力として核は有効か?
「そうは言っても抑止力としての有効性はあるのではないか」と言う人もいるかもしれないが、これもドリーマーの意見としか言いようがない。抑止力論議は「相互確証破壊」と相互の信頼によって成り立つ。「使えば必ず相手も滅びる」であり「相手も理性を持っている」ならば「滅びたくない以上使うはずがない」という論理だ。では聞くが日本が核保有したとして、日本が仮想敵国と考える国に対してこれは有効な考え方か。「使わずとも滅びるかもしれない国」であり、かつ「相手に理性があると信頼できない状態」だとするならそもそも「抑止力としての核」なんて有効でも何でも無いのだ。巨大大国同士がにらみ合っていた冷戦下でこそ一時的に有効であった議論を、前提を考えずに普遍化する事自体間違いである。また、「相互確証破壊」というが、失うものはどちらが多いか。仮に使った後互いに国土が放射能汚染された焼け野原になったとして、デメリットはどちらが大きいか。実際問題として「確証」的に破壊する能力を保持するだけでも現実離れしているが、仮にそこを突破できて、相手国を破壊できたとして、それで「相互破壊」と言えるのかという問題も指摘しておきたい。
ミサイル防衛システム
以上を考えたとき、中距離弾道弾に対する対策はミサイル防衛に限定される……というのは何も私の個人的な見解でなく政府見解であり、その線に沿って政府は対策を粛々と進めている。そこでは核保有という選択肢は全く考慮されていない。中川政調会長がそういうことを知識として知らないとは思えないが、TVで司会に煽られてああいうことを言う以上は、知識としては知っていても理解は全くできていなかったということだろう。その辺の草ブログが無責任に放言しているだけならいざ知らず、党三役レベルの職にある人が公の場でそういうことを口走るとは愚かなことだ。
・まとめ
上記のような状況のもとで、「核保有について政府内で議論する」可能性に言及することは、日本が非核三原則を見直すつもりがあるというメッセージになるのであり、それは単に外交カードを一枚失うということのみならず、日本の国家としての戦略を全く変更するということにつながってゆく上に、更に世界に対して「被爆国もああ言ってることだし、やっぱり核兵器って必要だよな」という言い訳を許すことにもなるだろう。従って、あくまで日本の対外メッセージとしては「非核三原則堅持」であり「核保有議論の余地無くあり得ない」でなくてはならない。それ以外の選択肢は無い、というのが政府見解の意味だ。その重みと自分の立場を彼らは理解しているのか。その辺の親父が居酒屋で言ってるのとはワケが違う、ということを、彼らには自覚して貰いたい。総理からフォローのメッセージが出たおかげで首の皮一枚つながっているが、本来なら即刻議員辞職すべき失言である。こんなことは、本来こんなとこで自分が書く必要もない。少し調べれば誰にでも分かる程度のことだ。その程度の努力もせず無責任に放言しているブログの書き手たちは、そういう言説を広めることで自分たちこそが反政府的行動をしているということを少しは自覚した方が良いと思う。分かってやっているなら何も言わないけど、そうでも無いらしいのでひとこと。

(追記2)外相の暴言
議論も大事−麻生外相
安部くんが火消ししたのに、外相が再燃させてます。就任早々の外務大臣がこれですか。こういうのを閣内不一致と言いますが、問題は麻生くんがこれをどういう意図でやってるかということですね。
1外相としての外交の一環(たとえばブラフ)
…だとするとお粗末すぎて話になりません。上で私が書いたようなことは当然日本の事情を知っている者には周知のことなので、「持つフリ」なんてしても意味がない。それどころか、そのブラフを逆手にとられて、今後日本の外交がやりにくくなる可能性もあります。もちろん、それを含めてアメリカの一部勢力の意向を受け麻生君がとびはねてる可能性もないではないです。しかし、彼はアメリカの国民に選ばれた政治家ではないわけですから、彼が何を優先して動いているのかが問題です。
2外相としての外交の一環2(たとえばボール投げ)
とりあえず国内外の反応を見るためのボール投げの可能性はあります。がそのボールが他人の頭にあたって傷つけてしまっては、とんだ失点にしかならないわけで、今回の発言が仮に「ボール投げ」の意図でなされたのだとしたらお粗末を越えて失態です。外相としていかに空気読めてないかということの現れにしかならないでしょうね。
3一政治家としての所信表明
これを「従来から彼が考えていた理念に基づく発言」…と取る人もいるでしょう。が、外務大臣として発言している以上それは言い訳にはなりません。立場を分かってない。また悪く取るなら、外務大臣としての責任よりも個人の政治家としての人気を優先したということになるわけで、そういうことがしたいなら外務大臣などというポストを受けるべきではありません。
4安部後を見据えた個人の人気取り
最悪の可能性ですが、現時点で「閣内不一致」の誹りを受ける覚悟で安部と対立関係になることをいとわず発言したのだとすれば、完全に個人の保身を外務大臣としての職責より優先したということになるでしょう。つまり、「安部よりも強行派の麻生」というカラーを打ち出し安部支援勢力に対して「次の首相候補」として名乗りをあげ人気を奪うため、ただそれだけのために、国家百年の大計を危うくするようなまねをしているということになります。とんだ売国奴ということになりますが、なるべくならこのケースではないことを祈ります。が、昨今の安部君の発言を見て、あのパフォーマンス好きの麻生くんがこういうふうに動く可能性はあまりにもありそうで…嫌になります。はてさて真相はいかに。

そして、いずれのケースだとしても、「議論自体もあり得ない」と述べた原理原則に基づけば首相はこれに毅然と対処すべきです。対処しないとすれば、自身の発言自体が軽くなりますし、首相が何を言っても閣内がそう動くとは限らないという印象を内外に与えることになるでしょう。ただし、対処したとしたらそれはそれで麻生くんも黙ってはいないでしょう。そこで首相が素直に麻生君に頭を下げさせることが出来るのかどうかが問われています。
こういう問題が起きてくる辺り、やはりこの内閣の最大のウィークポイントである「若さ」が思いっきり露呈した観がありますね。

(追記)
しょうこりもなく二言、三言め。
「糖尿病だから核攻撃も」中川政調会長

中川氏は講演で日本の核保有に関し「非核三原則は前提」としつつ、「万一(の事態が)起こったときにどうなるか考えるのは政治家として当然のことだ。相手が核となれば、核の議論ぐらいしておく必要がある」と述べた。
 自身の核保有発言が批判されたことにも「(核ミサイルが)飛んできたときの議論をしない国はない。あの批判が正しかったとしたら、(そういう理屈が通るのは)日本だけだ」と強調した。

「飛んできたときの議論」てなんですか?
飛んでこないようにする議論ならまだ分かりますが、飛んできた時にどうするか、というのは、日本が核保有するかしないかという議論とは関係ないと思いますが。
それともこの人の頭の中では日本は既に核保有国であり、飛んできた時に核で反撃するかどうかをこの人は議論したいということなんでしょうか。


外相という立場を顧みず中川発言を擁護した麻生外相は「言論の自由」と開き直ってます。よろしい、「自由」というのは責任と一体の概念です。言論の自由を振りかざして日本に不利益をもたらした外相は何を以て「責任」を取って頂けるのか。責任が取れないなら「自由」なんてありません。便所の落書きじゃあるまいし。

*1:言うまでもなく、それが外交カードになりうるのは「世界で唯一、大量破壊兵器としての核兵器によって都市を壊滅させられた経験を持つ国である」というアドバンテージのお陰です。

*2:さっそく反応が来てますね。http://megalodon.jp/?url=http://headlines.yahoo.co.jp/hl%3fa%3d20061017-00000051-mai-int&date=20061017153731 中川発言は速攻で『日本の核武装論』と受け取られてますね。口の軽いお調子者のせいで日本中が迷惑をする。