キレイな言葉を使っても「軍部の暴走」であることは免れない

例によって「有識者会議」という名の官邸直属怪しい政権宣伝部隊が状況も分からないまま暴走しています…。
「駆けつけ警護」認めるべきで一致(TBSニュースi)

 集団的自衛権に関する政府の有識者会合はPKO=国連平和維持活動を行う自衛隊に対して、憲法上できないとしてきた「駆けつけ警護」を認めるべきだ、という意見で一致しました。


 PKO活動の際の武器使用は、正当防衛や緊急避難などの場合に限られていますが、10日の会議では国連の集団安全保障の問題としてとらえるべきだとする意見で一致しました。


 その上で、正当防衛を超えるとして憲法違反とされるいわゆる「駆けつけ警護」は認めるべきだとする意見が相次ぎました。これは、味方である他国の軍隊が攻撃された場合、駆けつけて応戦するものです。

既に、各所で話題になっているようで、
裏のメディアが表のメディアになる時、世の中は激変する(天木直人のブログ)
イラク派兵で暴走しだした「軍の論理」と、「滅びの美学」を追求する「美しい国」内閣?(多文化・多民族・多国籍社会で「人として」)
あたりを発端に
国民を騙すつもりだった〜佐藤正久は議員として不適切、直ちに辞任せよ!(情報流通促進計画)
「現場の判断」で戦闘に与してもらっちゃ困る(good2ndの日記)
あたりが丁寧に問題点を指摘しておられます。


(9/7追記
カマヤンさんのブログ http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20070907
でも取り上げられました。また、
辻本清美公式ブログ http://www.kiyomi.gr.jp/blog/2007/09/04-1362.html
でも取り上げられました。この話はやはり風化させてはいけない問題だと思います。)


結局この話のポイントは、まず「駆けつけ警護」の是非よりも、この話がまかり通れば、現場の一軍人の判断で戦争に踏み込めるという、文民統制シビリアンコントロール)を覆す重大な問題について、それを考えず「集団的自衛権を認めるべき」という意見の延長で論じられている点です。ハッキリ言えば「駆けつけ警護」が是ならば「集団的自衛権」を認めるか否かなどというレベルの話など吹っ飛ぶのですが、「有識者」とやらはこの点については全くの「無識者」なのでしょうか。だって「駆けつけ警護」が認められるならば、いかなる戦闘についても「(集団的でない)自衛のため」という大義名分がたてられるわけですよ。「集団的自衛権を認めるか否か」なんて議論、全く意味が無くなるじゃないですか。


たとえばアメリカが某国と戦争する、そして地球の裏側になぜか武器を持った自衛隊が「非戦闘地域だから」という名目で駐留している。アメリカ軍がやがて戦闘に突入する。そのとき現場の一自衛官の判断ということにしてその戦闘に「駆けつけ警護」していいなら、一国と戦闘状態に突入するか否かという判断において文民統制シビリアンコントロール)を働かせる余地がどこにあるのでしょうか。「目の前の仲間を見捨てるか否か」などという情緒的な物言いで誤魔化すべきではない。問題は「戦闘行為を行うか否かの主導権がどこにあるか」という問題です。もしどうしても人として「仲間を見捨てる」ことが嫌なら、日本国籍を捨てて日本国民の税金で購入した武器をすてて裸一貫で一人の無国籍の人間として助太刀に行くべきでしょう。「日本の自衛隊」としてそこにいる以上、守らなくてはならないのは「日本人」であって「他国の軍隊」ではない。「他国の軍隊」を守ろうとした結果「日本人」を勝手に危険に晒すのは、自衛官として裏切り以外の何ものでもありません。



そしてもっと恐ろしいのは、今回の参議院選挙で自民党から立候補し当選した元イラク先遣隊長の佐藤正久参院議員が、イラクで実際に「駆けつけ警護するつもりだった」と平然と述べているという事実です。もちろん、それが違法行為となることを承知の上で。

 こうした事例について、イラクに派遣された陸上自衛隊の指揮官だった佐藤正久氏は、当時現場では、事実上の「駆けつけ警護」を行う考えだったことをJNNの取材に対して明かしました。

自衛隊とオランダ軍が近くの地域で活動していたら、何らかの対応をやらなかったら、自衛隊に対する批判というものは、ものすごく出ると思います」(元イラク先遣隊長 佐藤正久参院議員)

佐藤氏は、もしオランダ軍が攻撃を受ければ、「情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる」という状況を作り出すことで、憲法に違反しない形で警護するつもりだったといいます。

「巻き込まれない限りは正当防衛・緊急避難の状況は作れませんから。目の前で苦しんでいる仲間がいる。普通に考えて手をさしのべるべきだという時は(警護に)行ったと思うんですけどね。その代わり、日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」(元イラク先遣隊長 佐藤正久参院議員)

カッコイイこと言ってるようですし、彼の言ってることは事実現場の指揮官として「十分にやむを得ない」彼なりの判断だったかもしれませんが、この話はそもそも自衛隊サマワに行かせることがいかに無茶苦茶なことだったかを雄弁に物語っています。
「駆けつけ警護」をもし実施していて、自衛隊員に犠牲が出た場合、また報復として東京なり大阪なりでテロが起きた場合など、彼が「裁かれてやろう」と言ったところで責任など取りきれる問題ではありません。
こういう無茶苦茶なことを現場の指揮官が覚悟しなくてはいけないような状況に追い込んでいた当時の政府の無茶無謀ぶり。政治の無策。


文民統制の原則を踏みにじるような佐藤議員の発言は、一自衛官としてなら問題発言→処分で済むかもしれませんが、議員としては残念ながら確かに辞職に値する位重要な問題です。これが問題発言だという認識があれば少なくとも当然全面撤回/謝罪が必要だということは分かるでしょうし、認識が無いとすればそもそも彼の国会議員としての適性自体が問われなくてはなりません。が、それ以上に当時の政府がその部分でどういう対応を考えていたのか、彼がこれを独断で考えていたのかそれとも誰かからそういう指示があったのかを、きっちりと解明するべきだと思います。その上で佐藤氏個人の資質の問題が問われるべきでしょう。
これが彼個人の資質の問題であったとしても「そのような人物を、第一次イラク先遣隊の隊長という重大な任務につけた任命者の責任」は免れませんが、これが彼個人でなく自衛隊という組織の問題であった場合、防衛省関係者全体の問題であった場合、そして自民党の一部、もしくは当時の政権を含め政府全体の問題であった場合……と、はてしなく問題は拡大され得ます。


それにしても、参院選で自民が大敗しなければこういう話もすーっと通っていたかと思うと、本当にぞっとします。選挙って大切ですね。