恐ろしい時代になったものだ…

著作権に関する小委員会に出席している津田大介さんの発言に関するニュース

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介さんは「録音・録画に使わない機器からも補償金を徴収されるのは、消費者として納得できない」とし、もし徴収するのなら実効性のある返還制度が必要と主張する。さらに「補償金制度がなくなったら、DRMやコピーガードが強化される可能性がある。DRMが強化されるか、補償金を支払うかの2択なら、補償金を支払う方を選ぶ」と述べた。


それに対する津田さんのブログでの説明

『良い悪いではなく、そういう厳しいDRMが普及する状況になって消費者が自由にコンテンツを楽しめなくなるのなら、返還制度がきちんと実効的に機能する枠組みがある上で1台あたり数十円とか上限を非常に安く設定して補償金を払い、その上で家庭内の私的複製を阻むようなことを権利者がしない……つまり補償金がなくてDRMが厳しい世界と、広く薄い(十分に安い)補償金払って家庭内ではコンテンツを自由にコピーできる世界の二択しかないなら、僕は後者を選ぶ』
(少なくとも今議論の俎上にのぼってる「著作権法30条を改正して、ネット上に上がっている違法著作物のダウンロードを私的複製の外に置いて、ダウンロードする行為を犯罪化させるような状況だったら、補償金払うことは飲めませんよ)


一部で津田さんは「補償金にたかる寄生虫」呼ばわりされているのだそうで、その原因が上記の発言にあるとしたらずいぶんと的はずれな批判を浴びているわけで気の毒だ。そもそも会議の雰囲気がすでに

このまま行くとこの小委員会、文化庁が書いた絵(それは要するに音楽業界、テレビ業界、映画業界の権利者の要望を100%受け入れるということだね)で著作権法改正決まっちゃうよ。その骨子は

著作権法30条を改正。ネット上に上がってる違法な著作物(着うたやらMP3やら動画やらP2Pやら)をユーザーがダウンロードすることを「犯罪」にする
iPodをはじめとするメモリーオーディオを私的録音補償金の対象にする

あと2回を残した委員会の議事進行を見てると、もうこの2つは確定的になってしまったという感じ。前回の小委員会で「30条を改正して違法著作物のダウンロードを私的複製の外に置くというのは、概ね了承を得た」という文化庁のまとめに対して俺は「いや、僕は了承してないし、これ僕どうしても止めたいんですけど、それはどうすればいいんでしょう? これもう決まっちゃったことなんですか?」と身も蓋もない疑問を口にしたら、会場全員苦笑いみたいな空気に包まれて俺がいたたまれなくなったりもしたんだけど、本当にこれ、補償金とかどうでもいい小さな問題で、多くのネットユーザーを潜在的に犯罪者にするような法改正しちゃっていいのかよ、という懸念はずっとある。

……というような状況だと、もう何をか言わんや、という状況ですね。ダウンロードって言葉の意味が分かってないような人々が何を議論しているのやら。


「ダウンロードしたら犯罪」って、それ「インターネットに接続したら犯罪ね」って言ってんのと一緒だよ?*1webページを表示する際、あらゆるデータは「ダウンロード」されてるわけで、そんでそれらはすべて誰かが創作してネット上に置いているものだけど著作権が放棄されているわけではない。「違法著作物をダウンロードする行為が犯罪」って、じゃあページリンク飛ぶ前に、飛んだ先にあるデータに「これは違法著作物です」って書いてあるの?「これは違法著作物ではありません」という証明をもらってデジタル署名を貼り付けない限りコンテンツをアップロードすることもできなくなるのかな?(文化庁側のコメント「適法サイトであることを示す識別マークを普及させることが優先」…じゃあ、適法サイトに違法コンテンツがアップロードされたらどうなるの?)馬鹿馬鹿しい。著作権法の改正ということになる以上、津田さんが指摘しているようにコトは音楽や映像にとどまらずテキストに及ぶ可能性だってある。昨年11月に政府がこの方向で著作権法の改正を考えているという話が出たときは、まさかそんな馬鹿馬鹿しい改正を真面目にするわけないと思っていたのですが、どうやら甘かったようです。


委員会の人々は「インターネットとダウンロード」という概念を多分「テレビ放送とその録画/ラジオ放送とその録音」みたいな感覚で捉えているんじゃないですかね。で、違法に著作物を流す奴らがいて勝手にそれを録画する奴がいるから、両方違法ってことにしてしまえ、みたいな。でもそのたとえで言うなら本当は、あらゆるラジオの電波領域が自由に使用されて勝手に著作物を流す奴がいるから電波受信した奴は全員犯罪者ね、っていうのと同じなわけで、お前らこそどんな電波受信してんだそれ、みたいな。もうラジオ聞くなと言ってるのと同じ無茶苦茶な話で、ダウンロード違法化って要はそういうことになると思うんですが…。


いわゆるファイル共用ソフトなんかは、私は好きではないので使用したこともないし、ましてそれで著作物を共用するというのはどう考えても違法行為。一般社会ではお金を払わなきゃいけないものが「タダ」で手に入ることがおかしいという感覚を失ったらマズいでしょう、と思います。でも、だからといって、まともな議論なしにこういう法律が通ってしまうような社会であってはならないとも思ってます。これがベストなやり方だとは全く思えない。関係者の再考を心から願っています。

(追記)9/27
「法改正後はYouTube見るだけで違法」は誤解、文化庁が見解示す
タイトルはまともそうですが、どうみても誤解してるのは文化庁です。本当にありg(ry

「視聴のみを目的とするストリーミング配信サービス(例 投稿動画視聴サービス)については、一般にダウンロードを伴わないので検討の対象外である」という脚注を追記することが事務局から提案された。


YouTubeなどの動画共有サイトを視聴する際には、動画ファイルのキャッシュがPC内のHDDに一時的に保存される。この点についてIT・ジャーナリストの津田大介氏は、「違法ダウンロードが法制化された場合は、キャッシュとして保存することも複製と見なされ、違法行為になってしまうのか」と疑問を示した。


 この質問に対して川瀬氏は、「それが複製にあたるかどうかの知識はない」と前置きした上で、2006年1月に提出された文化審議会著作権分科会報告書の内容を紹介。それによれば、文化審議会著作権分科会に設けられた「法制小委員会」において、仮に現行の著作権法でキャッシュが「複製」と解釈されても、権利制限を加えるべきではないとする見解が示され、法改正事項として挙げられていると答えた。

「ストリーミング配信は ダ ウ ン ロ ー ド を 伴 わ な い 」*2
「(キャッシュが)複製にあたるかどうかの 知 識 は な い 」
なんという釣り!


…と揶揄するのはおいといて、彼らの主張を最大限やさしく汲み取ると、文化庁的には「ユーザーの手元に『著作物』が残って、何度も視聴できたりする形態にすること」がダウンロード(文化庁的意味で)であって、それを取り締まりたいってことなんでしょう。


そうすると、「見てる番組をHDDに残して、『見たいシーンをスローでリプレイ!』なんてさせてたり、あるいは後日別時間に再生可能にするHDDレコーダー」なんてもちろん違法だし、リンク先を自動的に先読みダウンロードして高速表示を可能にするソフトももちろん違法ということになります。そもそもサーバー自体が片っ端から検挙されることになりますね。そしてまたデジタル署名を申請し許可がおりなければいかなるコンテンツもアップロードできない……そんな暗黒時代が到来してしまいそうです。


また逆に、著作物をストリーミング配信するようにしても、ユーザーに「ダウンロード(文化庁的意味で)させているわけではないから合法です」ってことになるのでしょうか。それはおかしくないでしょうか。私の感覚では、これは明らかにブラックなんですが。


まあ、申し訳ないんですが、著作権課を代表して発言している人間が「キャッシュが複製にあたるかどうかの知識はない」なんて発言したら、ユーザーに不信感が高まるのは当然の反応です。知識がないならしっかり勉強して知識を得てください。あるいは知識のある人に法律を起草させてください。


参考:津田さんのブログの同件に関する記事 http://xtc.bz/index.php?ID=474

(追記)
文化庁擁護記事
http://bewaad.com/2007/09/30/286/
いや、これ「補足」じゃなくて、完全にwebmasterが文化庁の中の人の代わりに調べて自分の意見を述べてるだけだと思うんですが…。


(追記2)
違法ダウンロードに一曲100万円、米で判決(yahoo!ニュース)
もうすぐもうすぐ。

*1:なんという情報管理国家!

*2:データがダウンロードされなければ