ガラスを隔てた闘争

動物行動学者K.ローレンツの著書攻撃―悪の自然誌に、熱帯魚シクリッドをつがいで飼うエピソードがある。(著書のおおまかな内容はこちらに「ここまで内容を書いていいの?」というくらい丁寧に要約されている。)

ローレンツは「同種の仲間は拡散した方が生存に有利なので、互いに攻撃し合う。自然界においては、余所にえさ場があるのに同種の仲間が一カ所に集まってしまうと共倒れする可能性が高い。拡散した方が明らかに種の保存のためには有効だから彼らは同種の生き物にたいして「攻撃」する衝動を進化の過程で身につけたのだ」と、生物の「同種内攻撃衝動」について明快に説明する。シクリッドという魚は、ローレンツが飼ったなかでも獰猛なファイターで、ほんの小さな魚なのに大きな水槽でも二匹を飼うのがやっとであったらしい。両者は水槽の中央付近で激しく互いを牽制し、ときには互いを攻撃していた。
ローレンツはそこで片方をつがいにしてみた。片方の「夫婦」は協力してもう一人の「独身者」を水槽の隅においやってしまった。そこでもう片方もつがいにしてやると、とりあえず再び領土は拮抗した……しかし喧嘩も激しくなってしまった。
やむを得ずローレンツは水槽の中央に黒い仕切りをして両者の領域を分けた。すると今度はさっきまで協力し合っていた「夫婦」が互いを攻撃し始めたではないか!狭くなった水槽というストレスの元で、はけ口を失った「攻撃衝動」は、本来攻撃すべきではない隣の味方にまで向けられたのだ。そこで一計を案じたローレンツが「透明な仕切り」を導入したところ、仕切りの向こうに「敵夫婦」を発見した夫婦は再び相手を攻撃するために仲良く協力をはじめ、ガラス越しに互いを威嚇し合う二組の夫婦はついに『平和的に共存』することになったのであった。こうしてローレンツの仕事は、ときどきそのガラスにコケがついて曇ってしまわないように…そうすると再び夫婦が互いに攻撃を始めてしまうから…掃除するだけになった。

…この実験の示唆するところは多大であるが、ローレンツはこの水槽の5年後、10年後を予見していただろうか? と問うてみたい。

かくて「平和的共存」におちついた二組のシクリッド夫婦AとBはせっせと種族拡大にはげみ、そしてそれぞれの国…A国、B国を築き上げた。両国は「ガラスを隔てて闘争」している限り平和であった。しかし○○年後、グローバルスタンダードという名の水が流入し水位が高まるにつれて、両者を隔てていた壁が徐々に越えられそうになってきていた…そしてそのころには壁の両側は敵意をむき出しにした数万の両国民で一杯になって……

てなことにならないと良いですね。現代のローレンツさん(達)。
全然関係ありませんが、韓国の安全保障脅かす国「1位北朝鮮・2位日本」朝鮮日報)というニュースが流れていましたが、ニュースソースの「朝鮮日報」はもちろんともかくとして、記事の最後の

今回の調査の誤差範囲は95%、信頼度は4.2%ポイントだ。

というのが誤訳なのか誤訳でないのか。意外と悩んだりしている今日この頃です。