バウチャー制度の活用可能性は?

教育基本法が改正されるそうですが、まともな議論が聞こえてこない*1中、先日のバウチャー制度に関する質問について『暇刊女教師』blogのまりえさんからコメントをいただきました。それについて考えたことを、返事兼覚え書きとして書こうかと思います。

バウチャー制について、個人的には特に異を唱えるものではありません。学校以外の選択肢って、もっとあっていいと思っています。
ただ、あくまでも適応できるのであれば、ホームグラウンドは現在の学校であってほしいと思います。

とまりえさんは書かれました。その理由として

私は、昨今の不登校の増加は、大多数の生徒(家庭)の変化からくる学校の問題処理能力の限界、あるいは軌道修正の困難が基本的な原因ではないかと思っています。そこへ加えて「逃げてもよい」ハードルが低くなったこともあると思うのです。(一回休むと、誰でも次回行きにくいものですよね)
「逃げてもよい」けど、いつかはどこかで、集団の中で生活することは避けられないわけですから。学校以外の場所が、集団に入っても大丈夫、というところまで力と自信をためる場所になれば、大いにいいと思っております。

をあげておられます。現場で生徒一人一人と向き合ってこられた方だけあって、着眼に重要なポイントがあると思いました。
現在、不登校の生徒などを受け入れる施設として、様々な管轄の様々な施設があります。*2が、基本的にそれらは『学校』とは別組織であり、従って仰るように『いつかはどこかで、集団の中で生活することは避けられない』生徒に取って、それが『力と自信をためる場所』になりうるかそれとも『単なる逃げ場』になるかはなんとも言えない所があると思います。
振り返れば、自分自身にも、多分公立学校には適応できなかったろうなという思いがあります。中高と私立に通うことができたのが、重要なことだったという気持ちが今回の話につながっているのかもしれないと少し思いました。ただ、そこから「公立」に復帰した大学時代のとまどいを考えると、まして現時点で「学校」とされている以外の場所に進むこどもらの将来は考えておかなくてはならない。その意味で、現実問題として『Alternativeからの復帰』を見据えるご意見は貴重だと感じます。
一つの考え方として、『学校』という場にそのままもうひとつの『学校』を作ってしまうというのはどうでしょう。つまり部分的にでも良いので、同じ校舎・設備、同じスタッフが対応するもう一つの公立の学校(たとえば、既存の小中学校に、定時制通信制(土日登校)の課程をつくるような)を作るということです。職員の負担等を考えればまったく現実的でない…と思われるかもしれませんが、不登校対策の諸費用を利用し、またいずれ余ってくる職員をそのための予備人員として仮に現在の1.5倍の人員を現場に配置しワークシェアのシステムを進めれば、まったく不可能な案とは言えないでしょう。全科を一人で見るシステムの小学校では難しいにしても(それ自体変更の余地はあると思いますが)、少なくとも中学校でなら可能な案ではないでしょうか。この案の良いところは、Alternativeを選んだこどもが、元の場所とのつながりを保ちやすいという点です。また指導の継続性も言うまでもなく保てる。元の担任がそのまま担任として(あるいはもともとよく知っていた先生が担任になるなどして)違う時間帯ではあるけれど同じ校舎に通う(接触は無いように心がけて)。もちろんこの方法が合わない子もいるでしょう。あくまで集団から離れる最初の段階、あるいは集団に復帰する最後の段階に使うという感じで運用してもいいかもしれませんが、一つの案として。
もう一つの考え方…というか、これはバウチャー制度が定着したと仮定した場合の話ですが、社会が様々な教育の場をこどもに提供するという意識が根付けば、そもそも子どもが戻るべき場所とされている「公的な義務教育を受ける絶対多数の子ども集団」…つまり「世間」の基盤になっているその巨大な集団自体が解体され、変化を余儀なくされるのではないかと思っています。そして、この社会の中に様々な仕事をする人があちこちにいるように、そこに上下の序列ではなく多様性の認識が芽生えるということを期待します。さらに、そういう社会で育った人が社会をつくりはじめたとき、日本社会の構造自体もこれまでとは大きく変化するのではないか…と、大きく言えばそういうことも考えています。
現状で、明日からバウチャー制度を導入しても、「教育を受けさせる義務」と「教育以外の目的には使えないバウチャー」及び「制度の審査」がしっかりしていれば、急に、公立学校が解体したりはしないわけで、当面必要な人が必要なように使えるし、その中から新しい制度の模索も出来るだろう、と。問題点(教育機関と呼べないところがゆがんだ教育を行って税金を無駄遣いする可能性・それらの機関と審査機関の独立をどのように保つか?)はあるとしても、指導要領に縛られすぎた教育制度のあり方を変化させるにはやはり有効ではないかと思います。問題は、その制度をより使いやすいものにするという方策で、その一環としてまりえさんの仰る「復帰」に関わる問題は検討される必要がありますね。

*1:審議拒否していた野党の野党なりの責任感は分かりますが、野党にも、基本法の意義をきちんと理解し議論しそれを生かすという努力が欠けていると思います。「改訂の対案」など出さず、現行の基本法の下でできる様々な改革案を中心に据え、改訂は不要であり改訂を拒否するという姿勢を貫くべきでした。野党の改定案も私は支持しません。

*2:参考:http://www.futoko.co.jp/ta-ch/index.htm など