理屈不明

音楽保存サービス:ストレージ利用は著作権侵害 東京地裁(毎日新聞ニュース)
この会社のストレージサービスとは、要するに手持ちのCDの曲を携帯で聴きたいなと思った時、PC→携帯とするのでなく、PC→ネット上のサーバー→携帯、という媒介をするサービス。もし、このネット上のサーバーに不特定多数がアクセスできるなら、ファイル共有等に使われるわけですからサービスの違法性が問題になる可能性はないでもないですが、このサイトでは「ユーザーは音楽データをパソコンから同社のサーバーに保存し、携帯電話へのダウンロードはユーザー本人しかできない」ようになっていたということで、基本的に私的複製の手伝いをしていたに過ぎないと考えるのが妥当です。というか、あらゆるストレージサービス(一太郎のインターネットディスク、Yahoo!ブリーフケース…等すべて)はこの構造をしていますが、これのどこに問題があるとされたのか?


判決理由にかかる部分は次の通り。

判決は「システムの中枢になるサーバーは同社が所有、管理しており、同社にとってユーザーは不特定の者。複製と公衆(不特定多数)への送信の行為主体は同社だ」と判断。協会の許諾を受けない限り、著作権を侵害すると認定

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すいません。さっぱり分かりません。
一番分からないのは「同社にとってユーザーは不特定の者」というくだりでしょうか。ユーザーを特定しないでどうやって上のようなサービスを提供するのでしょう。自分が何を言ってるか理解してますか?
あるいは裁判長は、こう言いたかったのかもしれません。「アップロードするPCユーザーとダウンロードする携帯電話のユーザーの同一性を保証する方法が無い以上、両者が別人である可能性を拭えない」、と。なるほど、たとえば悪意あるユーザーが次々と捨てメルアドを取得して、自分のサイト上で「携帯へ音楽配信サービスします。一曲5円」とやり、応募してきたユーザーに対してそれぞれのメルアドを仮に割り振って、払い込みを確認次第アップロード→払い込んだ善意のユーザーがダウンロード……これなら、確かに「公衆への送信の補助」として使用されることはあり得ないではありませんが、そんなこと自分のサイト上でやれば済むことであってこのサービスを経由する意味がない。つまり事実上こんな想像は荒唐無稽だということです。実際問題として遙かに簡便な方法があり悪用の可能性がゼロなのにそれを理由に取り締まる……うーん、たとえば、「A社製のイスは余りにも重く、これで人を撲殺することが十分可能なので殺人幇助」みたいなもんでしょうか。人を殺したければイスなんて使わないでしょう、というかそもそも人を撲殺することが可能なものはもちろん、もっと効率的に人を殺せるもの(包丁・ナイフ類とか薬物とか)が普通に便利な道具として売られているのに何言ってるんだろうこの人は?レベルの話でしょうか。とりあえずこの理屈では、残念ながら取り締まるべき理由は見えてきません。


そもそも携帯電話のユーザーは端末固有のID情報で管理識別されており、このサービスをどう利用しても必ず1対1の送受信にしかならない。従って携帯電話とサービスの構造上、これを『公衆(多数)に対する送信行為』と考えるのは、(上の可能性についての理屈を無理矢理あてはめるとしても)明らかに飛躍です。これさえも「公衆に対する送信行為」として取り締まるなら、インターネット上にアップロードされたあらゆるデータは著作権侵害の「可能性」を持ち、従ってあらゆるインターネットプロバイダが著作権違反として訴えられるべきであるという無茶苦茶な話になってしまう。一体この裁判官は何をやっているのでしょうか?


…と思って調べてみると、「高部真規子」裁判長というのはこれまでにも色々と前科があるようで……
一太郎逝く(徒然なるKAZUOの日常)
これは「ポップアップするヘルプ」という機能を特許権侵害として一太郎に製造販売中止・製品回収を命じた判決。


高部真紀子裁判長がまた何かやらかしたらしい(From Laboratory with Love♪)
12月31日と1月1日の間には暗くて深い溝がある、という判決。


また高部真規子か!「unnoの日記」(From Laboratory with Love♪)
マンション「ヴォーグ」、弁当会社「ミシュラン」、高知東急事件、など、知財関係の裁判でことごとく原告請求を認める判決を出しまくっている、というレポート。



…などが見つかりました。
知財関係の裁判を多く手がけておられるようで、高い意識で早くから知財保護の判決を多く出してきたこと自体は評価できるとしても、特に高度情報化社会となった時代に関する問題、特に現代の状況については認識不足のご様子。この辺り、身近などなたかが内部で突っ込んで欲しいものです。でないと今後ますます晒し者になったり、場合によればこの人の判決傾向を見て悪用されるのでは(少なくとも、知財関係の訴訟は、東京地裁に訴えればこの人が担当する可能性が高く、被害を訴えている原告側が勝訴しやすい、と思われているでしょうね)。…と素人としては思ってしまうのですが、そのあたりどうなんでしょうかね。