映画「靖国」(「自粛」という名の公開中止)

先般よりこういう異例な事態を引き起こしていた映画「靖国」について
映画「靖国」自民国会議員向けに試写
ついにこういう事態に。
問題作『靖国 YASUKUNI』次々と上映中止で東京公開断念に…
映画「靖国」公開白紙に 上映館全て辞退 トラブル警戒
元記事:http://www.asahi.com/national/update/0331/TKY200803310328.html


試写を要求し、おそらくは映画に対する圧力の先頭に立っていたと思われるのは

 午後7時すぎに始まった試写会には議員秘書を含め約80人が参加。試写を求めた自民党稲田朋美衆院議員は終了後「検閲の意図は全くないが、政治的に中立な映画かどうかは若干の疑問を感じた。イデオロギー的なメッセージを強く感じた」と述べ、今後、助成金について文化庁と意見交換する考えを示した。(上リンクより)

例によって例の有名人で、おそらくその手先として動いたのもどういう方々か大体想像がつくわけであるが、とりあえず彼女がどういう人か知りたい方はwikiでも調べてみるといいと思う。


ちなみに映画「靖国 YASUKUNI」は残念ながら未見なので内容まではよく分からないが(※観にいきました。感想はこちら:http://d.hatena.ne.jp/jo_30/20080523/1211552700)、現在一時停止中であるらしい公式サイトの残骸にあった予告編映像*1と「李纓(リ・イン)監督インタビュー CINRA.NET」PAGE1PAGE2などを読んでみると、これを公開中止にさせてしまったことは、日本の国益を損なう非常に重大な問題であったと結論づけざるを得ない。


監督のインタビューから見えてくるのは、靖国神社という場所は「一外国人の眼からこう見える」ということにしか過ぎない。にも関わらず、それに対してエキセントリックな反応を示す人は、『その映像が異様に見えるのはそれが実際に異様な場所だからだ』という単純な事実を認めることができない人なのだろう。監督が中国人であることがこの際問題だろうか。映画は既にベルリン映画祭に招待もされ、世界中で上映されている。この映画がつきつけていることは、靖国をめぐる日本人のふるまいは奇怪である、というしごく単純な事実であり、その奇怪さと真実向き合うべきなのは当事者である日本人以外に無いのである。我が身を照らす鏡を塞いでも、我が身が他者からどう見られるかを制御することなどできはしないのに、一体この議員連中は何をしたつもりなのか。鏡を叩き割って自分の醜さを覆い隠したつもりか。その行為自体が他者からどのように評価されるかをほんの少しでも考えたか。


今後この映画が海外で上映され、その都度監督は聞かれ、我が意を得たりとうなずき、答えるだろう。「この映画を日本で上映しようとしたら、国会議員の圧力で上映できませんでした。(どよどよ…と、どよめき、ふかくうなずく聴衆)」事実その通りだ。よろしい。かの国会議員のお歴々*2はこの映画に対して最高のプロモーション素材を提供したというわけだ。彼ら彼女らの振る舞いは、この(ともすれば日本の一面を取り上げすぎているかのような)映画をどう判断すべきか迷っている世界の陪審員たちに、自信を持ってジャッジを下すべき決定的な証拠を提供した。そして更に聴衆は心の中で問いかけるわけである。真に言論の自由表現の自由があるのは日本か、中国か? ……答えは聞くまでもない。やれやれ。なんという国辱か。


愚かな味方は時として賢明な敵よりも始末に負えない。軍服を着て靖国詣でとか、そういう「画」を撮られてしまう時点で既に大変情けないわけではあるが*3、その映画の公開を妨げるというのはもう狂気の沙汰だ。恥の上塗りとしか言いようがない。情報の伝達速度が上がった現在、ごくごくローカルな片隅でこっそりと行われていた(/ω\)ハズカシーィお祭りが、好奇心あふれる旅人によって写真に撮られ、世界に晒されて文字通り「祭り」になっているわけだ。分かりやすくネットにたとえて言えば靖国問題は2chに晒されて炎上したようなもの。で、この議員たちのやったことは、ブログのコメント欄に貼られた「晒しスレへのリンクが書かれたコメントを削除」したようなもの、と言えば分かって貰えようか。さて元スレで晒した人はそれで困るだろうか?困るどころか大喜びであろう。常識的に考えて。


再度言う。愚かな味方は賢明な敵よりもタチが悪い。彼女らがいかに「日本のため…」と考えていようが、彼女らが行ったことは最大かつ最良の、この映画自体の宣伝に過ぎない。昨年の慰安婦決議への反対パフォーマンスといい、効果に関する検証を全く行わない、自己満足だけで迷惑を撒き散らすような行為は、公的な立場の人間のすることではない。いい加減慎んでもらいたいものだ。


もし彼ら彼女らが、ほんの少しでも自分たちのしたことの罪深さを自覚できるなら、即刻この映画の公開に向けて(水面下で構わないから)全力を尽くして運動すべきである。まあ、こうニュースが流れた時点でもう手遅れに近いわけなんですけれどもね。それにしても「自粛」という文言の厭らしいこと。こういう言い回しを見るにつけ、本当に日本に言論の自由など無いとしか思えない。つい先だってチベット問題における中国の国内報道のひどさを論じていた新聞やニュースが平気でこの「自粛」という言葉をそのまま報道するとすれば、それは言論の死を意味するだろう。そして死因は自殺。そういうことだ。


追記
id:bookmarktest様。同じTBが大量に来ています。何かの間違いか、testとやらの失敗?と思われるので一端全て削除しました。あしからず。


追記2
稲田朋美議員の言い分については以下リンク参照。
http://www.news.janjan.jp/government/0803/0803283785/1.php

稲田『日本は一部の政治家が文句を言って映画の上映を取りやめにする国ではない。試写について、事前検閲とか表現の自由に対する制約と言われることは、弁護士出身の議員として心外である。』

稲田『反日的映画だから政治家が反対したと騒いでいるのは、私と私の勉強会以外の勢力であると思う。日本は非常に人権が守られている国です。表現の自由が守られている国です。』

本当に真実そう思っておられるなら大変結構なことです。ならば今こそ

稲田『試写を求めたことによって上映を取りやめた映画館があるとしたら残念です。』

残念です、で済ませるのでなく、上映できないとしたら日本の恥ですくらい言うべきだろう。


(追記)
『靖国』上映中止(反戦塾)
言論が封殺されることについて、実際にその時代を体験していた方のブログエントリ。こういう発言は、本当にありがたい。貴重だと思う。戦時中の祖父の話を以前書いたことがある(http://d.hatena.ne.jp/jo_30/20050702/1120266758)が、たとえ全体から見ればほんのささやかな断片に過ぎないとしても、その時代を生き、体験したことをもとにした言葉にはそれだけの重みがある。

(追記2)
その後の動き
自民議員が出演者聴取 “靖国”監督が反発
上映中止や政治圧力に抗議 「靖国」で映画監督ら
一応
本人(有村治子氏)の弁明


有村さん本人には「それがなぜ国会議員の仕事なのか」とお伺いしたい。そして「国会議員がそこに介入することがどういう意味を持つか」「調査・観測とは純客観的な行為ではあり得ない」ということを述べたい。そして「公平無私な立場とは言い難い人間が仲介をすればするほど話はこじれる」本当に刈谷夫妻のためと思っているなら、良い弁護士を紹介してあとはそちらに任せるべきでしょう、と。そうしないのは自分の主義主張に夫妻の言葉を利用しようとしているに過ぎない、と言われたらどうしますか、と。本当に監督の撮った映像が夫妻を傷つける類のものであれば、どんなメッセージを意図していようがこめようが映像もまた低劣なものになることでしょう。結局のところ今の段階でごちゃごちゃと間に入ること自体、上映中止を目的にしたものとしか言えず、非常に不純な行為だと言われるわけです。世界に対していい恥さらしですよ、本当に。


表現の自由、思想・信条の自由は、民主国家の生命線です。情報が恣意的に統制されれば民主主義は死ぬ、という常識を、『民主』という名前を抱く政党の国会議員は肝に銘じるべきです。実直さや一般人目線をウリにされるのも結構ですが、「自由」で「民主」的な政党から立候補して政治に携わっている以上は、せめてそういったことについてはまず一般人以上の知識と鋭敏な感覚を持って臨むべきでしょう。


(追記3)
映画『靖国』問題 出演者の刈谷直治さんが削除希望をしているというのは、有村治子議員による"作り話"だった(blog*色即是空)
さてさて。これが事実ならますます困った立場ということになる有村治子氏。真相と釈明はいかに。

*1:いつまで見られるか分からないのでリンクはしません

*2:稲田朋美を中心とする面々

*3:ナチスの軍服を着てヒトラーの墓詣でをしているネオナチ集団…といった画を、たとえば想像して貰いたい。