諸悪の「根源」という言葉に惑わされ…

先日人と話をしていて、こんな会話がありました。

知人「近頃の若者は…という言葉、言いたくないんだけど、随分最近の後輩たちの姿に変化があるような気がするんですが…」
私 「なるほど変わった所もあるだろうし、大きな所で言えばそれは変わるだろうけど、どういうところでそう思うの?」
知人「人とのコミュニケーションのあり方が変わってきていて、それはやはり携帯が原因ではないかと思ってるんですが…」

この知人は、ごく最近まで携帯を持たない主義の人だったのでこういう話をしたのでしょう。

私 「それはあなたが携帯嫌いだからじゃないのかね」
知人「そうかもしれませんね」
 「ちなみに私は、悪い変化があるとすると、どうもTVがダメなせいじゃないかと思ってるけどね」
知人「jo_30さんはTV嫌いですもんね」
 「わははは」

……というオチ。
全ての事象は複雑に絡み合っているわけで、それは天ぷらのカキアゲのごとくなわけですね。でもって、人は任意の所にその端緒を見出すことができる。どこか一カ所をつまんで「ここがカキアゲの尻尾に違いないっッ」ってね。でもカキアゲのてんぷらに尻尾なんてないわけで。それが尻尾くらいならまだしも、「ココが根源(ルーツ)だッッ!」…という決めつけになると、相当慎重にやらないと痛いことこの上ないことになる。ほとんどギャグになってしまう。上に例示した「若者悪化=ケータイ原因説」も「TV原因説」も同じレベルでギャグにしかならないわけです。


で、こういうことを言うオヤジがいる。

「日本の教育のがんである日教組をぶっ壊す運動の先頭に立ちたい」
中山国交相、クギ刺されても止まらず(日経ネット)

色々恨みはあるんでしょうけれども、まあ少し落ち着きましょうよ。
戦後の日本の教育の根幹を決めてきたのがどうして文部省でなくて日教組だと思ってしまうのか。戦前世代の方々がはじめた成田の闘争までがどうして戦後教育のせいになるのか。そもそも公務員として雇われて、日本国憲法教育基本法の遵守を謳う団体を目の敵にするというのも妙な話なわけですが、現在の憲法に反対することを党是とする党*1に所属しておられるとどうも物の考え方が歪むのではないかと余計な心配をせずにはおれません。まあそういう方々は、二言目には「昔、日教組の一部が北朝鮮を賛美してた云々」とかの話を持ち出すわけですが、それなら自民党なんてある時期まで(今もか?)アメリCIAから活動資金の提供まで受けてたわけでそれを売国と言わずしてなんという的な争いになりますよね。*2敗戦国日本は、国際的にはとても脆弱な立場であった、ということに過ぎないわけで、そういう過去を暴き立てての泥仕合、なんて空しいじゃないですか。


だから、きちんと論理立てて「原因論」を追求することは有益であり得ても、まず結論ありきで述べられる印象論に基づく悪者探しなんて、ギャグか居酒屋放談にしかならないのです。中山放言は即日
  学力と日教組の関連否定 文科事務次官(47ニュース)
という調査結果を導き出し、現在の文部科学大臣
  『日教組と連携続ける』塩谷文科相(産経ネット)
と否定される始末。本気じゃなかったというならともかく、閣僚が『自分の首をかけて』言うにしてはつまらないギャグでしかなかったなという感想です。*3


まあ本家がそんなことになってるにも関わらず尻馬に乗る人は絶えないわけで、某府知事とか*4を筆頭に、まあ人力検索でもこんな質問が出たりする。
私も日教組は諸悪の根源だと思っています。/日教組に対抗する運動に参加したいと思います。/何かありますでしょうか?(はてな人力検索)
心配しなくてもそんな人掃いて捨てるほどいるので、どうしても参加したければ街宣車に乗せて貰ってスピーカーでがなりたてればいいんじゃないでしょうか。それがまともなことだと思うならば。


でも知られてないけど、街宣車の方々と日教組だって、意外とまともにやりとりしてたりするようですよ。集会に街宣車が反対しにくる際は、ちゃんと街宣車の方々からの陳情を受け取るコーナーを作ってるそうですしね。*5要するに何が言いたいかというと、ネットの上で仮想の「ニッキョウソ」とやらを叩いて満足してるんじゃなくて、不満があるなら実際に会いに行って話をしてみたら? という話です。その方が得るものがあると思いますよん。


(追記)
「組織率と学力の相関」などと下らないことを言い立てる前に「相関」と「因果関係」は全く別のことだということ位は理解しておくべきだ。たとえば親の収入と学力には有意に相関がある*6と言って良いくらいなのだけれど、それでも「貧乏だから学力が低い」とか「金持ちだから学力が高い」と因果関係で結びつけるのは、明らかに危険だ。*7
まして相関が明らかになってないのにそれを因果のように語るに於いてをや。そういうのを個人的偏見の拡大再生産と固定化、すなわち社会的差別という。


(追記2)
ゆとり教育(増田)
「落ち着いた意見」で語る良エントリ。ただ、「ニッキョウソ憎し」の人々は「ゆとり教育」を推進した官僚も日教組教育で育った世代だ!とか言い出すと思われ。なんという陰謀論
その意味では、こちらのエントリ「善意ほどやっかいなものはない、熱意ほど扱いづらいものはない(kiku.log)」のような指摘に耳を傾けるべきかもしれません。『データ的に、歴史的に間違ってると切って捨てるのは簡単だ。でも善意熱意の持ち主に対して、それはほとんど役に立たない』と。


(追記3)
町村氏「日教組発言、神髄ついた」中山氏かばう魚拓
道徳教育の問題については、別エントリにしますが……なんというか蠅叩きをしているような気分になってきますね。


(追記4)
この「日教組」とは、 あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか?
まさにそう思えて仕方ありませんね。

*1:「新しい憲法の制定を!」(自由民主党綱領)

*2:CIAと岸信介−池田信夫ブログなど参照。

*3:それにしても「火の玉になる」割にはアッサリ燃え尽きたようで。要するに辞める前に言いたいこといっただけですかこの人は。尻馬に乗った人が実に哀れ。

*4:この人、国政で何かがあると、頼まれもしないのに暴言を吐いてガス抜きするキャラになりつつある。そんなことだから衆院選に色気出してるとか言われちゃうんだよ。まあ言ってるのは私ですが。(追記)その後、この人中山発言の擁護をやめた模様。ホントに口の軽い、でもって人をおだてては梯子外すのが好きな人だね。

*5:鈴木邦男をぶっとばせ!」の中に、森越日教組委員長(当時)が若かりし頃青年部長をして、右翼対策の係をしてたときのエピソードがあります。泣かせます。

*6:「現役おばちゃん教師 日教組の何が悪いのよ!!」http://suzumeschool.seesaa.net/様のページにリンクさせていただきました。そちらに色々と資料が載っています。

*7:東京大学苅谷剛彦さんなんかが一頃からしきりに唱えられていた「受験費用の拡大により、現在の大学入試が格差社会(収入格差)を拡大固定化している」話など。そういう主張が社会学的な文脈において述べられるのはそれなりに妥当であるとしても、その主張がたとえばとある個人の学力の高低の原因についての『物語』として機能するかどうかについては全く検証不能である…という意味で、そういう言説を安易に用いるのは「危険」なわけです。