「足利義満600年忌記念 『若冲展』」

京都、相国寺承天閣美術館にて5/13〜6/3、10-17時……いや、何を書いてるんだか。行ってきました! 『若冲展』 
本日11時半頃到着したのですが、噂に聞く行列等は(チケット売り場も含めて)無く、やはり有休取って月曜午前中という選択は正しかったなあ…と思いました。ものものしい警戒の様子や各所のレポートページなどを見るに、土日の混雑は想像したくもないレベルのようですし。ちなみに、それでも展示場は満員だったということはお伝えしておきます。各画の前には必ず二重以上に人垣が出来ていました。はい。


伊藤若冲についてはこちらのページ(wiki伊藤若冲のページ)を参照していただくとして、今回の展覧会は、展覧会というよりも特別な意味を持ったものなのです。彼の代表作として有名な「動植綵絵」全30幅は、明治時代に皇室に献上され現在宮内庁管轄の三の丸尚蔵館に所蔵されていますが、元々は彼が世話になった相国寺に、釈迦三尊像とともに寄進したもので、長らく相国寺に飾られていたもの。それが今回の記念展の為に特別に貸し出されて、普段見られない、全30幅が揃った状態での展示となったわけです。チラシの歌い文句を借りれば120年ぶりの里帰り!今後も散発的に彼の作品を眼にする機会はあると思いますが、しかしこれらの作品を、いわば彼が意図した通りの形で見られる機会は、まず当分の間(おそらく私が生きているうちにはもう二度と)無いのではないかと思います。


そもそも私が若冲を知ったのは、古本市で買った古い若冲の画の複製からでした(この段落、自分語りなので適当に流し読み推奨)。その画の構図・配色・そして絵柄――細かく丁寧でありかつ大胆、写実的でありながら記号的、そして考え抜かれた構成と肩の凝らないユーモラスな画風――今までに見たことの無い不思議な画の世界がそこに広がっていました。色々と調べてそれが若冲の「動植綵絵」というシリーズの一枚「雪中鴛鴦図」(画像リンク先はいぬまゆさんのページ)という作品であること、全30幅のシリーズは全て三の丸尚蔵館に所蔵されており普段は見る機会が無いこと、近年再評価が進みつつあること……などが分かり、そして調べるほどに彼の画の世界に魅せられるようになったのです。「動植綵絵」それ自体は昨年東京で全5期に亘って公開され(これもなんと贅沢な体験であったことか!)ましたが、残念ながらその間東京を訪れることができたのは二期に過ぎなかったですし、そもそも全30幅が一同に揃った姿を見ることができるという体験にワクワクがとまらず、この日のくるのを待ち遠しく思っていたのです。


実際に見た感想は……いや、もう、言葉を失ったというほかありません。確かに一枚一枚は見たことのある画なのですが(初めて生で見る『雪中鴛鴦図』その他の画はやはりそれはそれでトリハダものでしたが)……。想像してください。一枚一枚に「世界」が広がる彼の渾身の画、細部に至るまで若冲ワールドの広がる画、30幅に取り囲まれる体験を! そのとき展示場はさながら多重世界からなる宇宙の図を為し、ああなるほどこれはこうして一つの曼荼羅を為しているのだと初めて(遅まきながら)合点がいった次第です。ブライスコレクションのタイル画風曼荼羅、そして3D版若冲ワールドというべき石峰寺の五百羅漢像の世界を改めて思い出し、彼の画の根底にある宗教的世界感覚、宇宙観が一つにつながったようにリアルに実感できました。この人の目に映る世界、この人の感じた世界というのはこういう世界なのか…という感覚。というわけで、もしこれを読んで「行ってみようかな」と思われた方、どうか全ての画を見た後、「動植綵絵」全30幅が展示されている第二展示場の中央に立って、再度、ぼーっと自分を取り囲む世界――宇宙を感じてください。人波がそれを許せば、ですが、しかしこの先もう二度と味わえないかもしれない世界を感じることができるはずです。

※本日の画像は、文中にある、石峰寺五百羅漢像の一つ。若冲の画をもとに作られた像だそうで、昨年4月に訪れた時に撮影した写真です。


(追記)
行かれる方に。図録は充実してますが重いです(ただし着払いで送ってもくれるそうです)。それ以外の展覧会グッズは余り充実していません。絵はがきとTシャツ、手ぬぐいくらいで、大きなポスターとかあれば買って帰ろうと思っていたのですが残念でした。まあお寺主催の展覧会ですから、そういう「美術的」な期待をしてはいけないのかも。同じぐらいの時間に、素足下駄履きのお坊さん二名がいかにも修行という感じで入り口を入ろうとしておられたのが面白かったです。

(追記2)
先行プレビューに参加されたTakさんからコメントとTBいただきました。先行プレビューのレポートは画像もたっぷりあって必見です! Takさんのサイトはこちら。まだ行ってない人は行きたくなること請け合い。既に行った人は再び感動に浸れること請け合いです。
なお、そちらのサイトで紹介されている学芸員の村田さんという方の「今回の展覧のテーマはずばり仏教者、人間としての若冲なのだ」という話は大変よく分かる気がします。上で書いた通り、今回の展示では今までと違った(というか、今まで漠然と感じていた)若冲の姿がひしひしと感じられたように思いました。